首から下の感覚が、ない。元消防士が忘れられない、2つの救急現場の話

消防士のリアル

🔥 こんな人に読んでほしい

  • 消防・救急の仕事の「本当のリアル」を知りたい人
  • 当たり前の日常や、家族の健康を、あらためて見つめ直したい人
  • 今、一人で苦しさを抱えてしまっている人

今日は「僕が忘れられない、印象に残った救急現場」というテーマで、元消防士として本音で書いていきたいと思います。

僕は5年半、消防士として勤めたあと、今はトラックドライバーをしています。その5年半で、数えきれないほどの出動をしました。今日は、その中でも特に、今も鮮明に覚えている2つの救急現場の話をさせてください。少し重い話になりますが、命について、家族について、考えるきっかけになればと思います。

その前に、ひとつだけ。よく「救急車に乗るのも消防士なんですか?」と聞かれます。答えは、はい。救急車に乗れるのは、消防士と救急救命士です。意外と知られていないので、こういう救急の出動もしているんだ、と知ってもらえたら嬉しいです。

「首から下が、まったく動きません」

一つ目は、僕が2年目の頃の事案です。

夜の10時ごろ、指令がかかりました。救急車1台と消防車1台で向かう「特命出動」。現場は、アパートの3階にあるご自宅。傷病者は、30代の男性。転倒して動けない、という情報でした。

正直、この情報だけなら、そこまで重篤ではないのかな、と思っていました。でも、現場に着いて、その考えは覆されます。

男性は、横たわっていました。意識ははっきりしていて、受け答えもしっかりしている。見た目は、頭に少し外傷があるくらいで、ごく普通です。ところが、「左足、動かせますか?」「右足は?」「指は動きますか?」と確認していくと──まったく、動かない。それどころか、触られている感覚さえ、ない。

横になっている意識はある。会話もできる。なのに、首から下の感覚が、まったくないんです。もしや、と思いました。脊柱損傷。疑いは、的中していました。

0歳の子どもを、守ろうとして

どうして、こうなったのか。

聞けば、その男性には、奥さんと、0歳ほどの小さなお子さんがいました。子どもを見ているときに、足を滑らせた。子どもが危ない、と思って、遠ざけようとした。その拍子に、頭から転倒してしまった──そういう事案でした。

我が子を守ろうとして、自分が、首から下の自由を失ってしまった。

僕はそのとき、消防車のポンプ隊として、搬送の支援をする役割でした。体格が良かったので、その方を運ぶ担当です。首から下がほとんど健常に見えるのに、まったく動かない。そんな方を運ぶのは、初めてでした。

無事に病院へ搬送し、事案としては終わりました。でも、僕の心には、ずっと引っかかり続けました。「この人は、これからどうなるんだろう」と。

「これから、どうするんだろう」

0歳の子どもがいて、これからバリバリ働き盛りの30代。おそらく、リハビリをしても、一生を車椅子や寝たきりで過ごすことになるかもしれない。健常だった頃と同じ生活に戻るのは、難しいかもしれない。

これから、その子はどう育っていくんだろう。父親は、どんな気持ちで毎日を過ごしていくんだろう。奥さんは、突然そんな状態になった旦那さんと、どうやって生計を立てていくんだろう。──考えずには、いられませんでした。

お年寄りが体を壊してしまうのは、どこかで「仕方ない部分もある」と思えます。でも、これからの人生が長い若い方が、一瞬で、その先の生活を危ぶまれる状態になる。それを目の当たりにしたのは、本当に衝撃的でした。

今、僕には1歳の子どもがいます。あの事案を思い出すたびに、自分の体を、健康を、本当に大切にしないといけないと思うんです。事故は、防ぎきれないこともある。それでも、気をつけないといけない。あの現場は、今も僕にそう教えてくれます。

覚悟を決めた人の、表情

二つ目の話をします。これも、僕が2年目、救急に出始めて2ヶ月ほどの頃です。

朝方、指令がかかりました。出動の途上で入ってきた情報は、CPA──心肺停止。呼吸をしていない。状況は、一人で、首を吊っている、と。

こういう現場は、初めてでした。いったいどんな状況なんだろうと、想像を巡らせながら向かったのを覚えています。救急隊としてまだ日が浅く、正直、どう動けばいいのかも分からない。先輩に言われるまま、資材を用意して現場に入りました。

部屋の中で、その方は首を吊っていました。僕は体格が良かったので、ロープを切るために、その方の体を持ち上げる役割をしました。

そのときの顔が、今もはっきりと目に焼き付いています。苦しそうな、それでいて、どこか安らかな表情。「自分で覚悟を決めた人は、こういう表情をするのか」と。正直、2〜3日は、少しトラウマになりました。夢に出てきそうなほど、衝撃的だったんです。

先輩たちは、なぜあんなに冷静だったのか

自死の現場に立ち会うことなんて、普通の人生では、そうそうありません。でも、この職業をしていると、そういう現場にも向き合うことになります。首吊り、飛び降り、電車への飛び込み、オーバードーズ──本当に、いろいろな現場があります。

その最初の首吊りの現場で、僕が驚いたことがあります。先輩たちが、あまりにも冷静だったことです。

その方は、すでに硬直も始まっていて、心電図も反応がなく、明らかに亡くなっていました。こうした場合は「社会死」と認定され、僕たちは搬送せず、警察に引き継ぐことになります。

心臓や呼吸が止まってから間もなければ、蘇生の可能性があるので、全力で救命活動をして病院へ運びます。でも、明らかに時間が経っている自死の現場では、助けられる可能性が、ほとんどない。だから先輩たちは、取り乱すことなく、淡々と、それでも丁寧に、やるべきことをやっていました。

体を持ち上げてロープを切り、死亡を確認し、警察へ引き継ぐ。人間は、慣れると、こんなにも冷静になれるのか。初めての現場でドキドキしていた僕は、その姿に、驚きと、少しの怖さのようなものを感じました。

だからこそ、命を大切にしてほしい

若手の頃に立て続けに経験した、この2つの現場。どちらも、僕の心に、今も深く残っています。

一つは、我が子を守ろうとして、一瞬で人生が変わってしまった父親。もう一つは、自ら命を絶つことを選んだ人。まったく違う現場ですが、どちらも「命とは、人生とは」を、若い僕に突きつけました。

だから、これを読んでくれているあなたに伝えたいです。どうか、自分の体を、健康を、大切にしてください。そして、もし今、一人で抱えきれないほど苦しいなら、その気持ちを、どうか誰かに話してください。あなたがいなくなって悲しむ人は、必ずいます。

消防士という仕事は、こういう現場のすぐ隣にあります。それでも僕は、あの5年半で見てきたものを、無駄にしたくない。命は、当たり前じゃない。今日、こうして生きていることに、感謝したいと思います。

※こころが苦しいとき、一人で抱えないでください。

・よりそいホットライン:0120-279-338
・いのちの電話:0570-783-556(10時〜22時)

よくある質問

Q. 救急車に乗るのは、消防士なんですか?
A. はい。救急車に乗れるのは、消防士と救急救命士です。消防署は火災だけでなく、救急の出動も数多く行っています。実は出動件数でいえば、火災よりも救急のほうが圧倒的に多いのが実情です。

Q. 「社会死」とは何ですか?
A. 明らかに亡くなっている(死後硬直が始まっている、損傷が生命維持と両立しない等)と判断される状態のことです。この場合、救急隊は蘇生・搬送を行わず、警察に引き継ぎます。逆に、心停止から時間が経っていなければ、全力で救命活動をして病院へ搬送します。

Q. こうした現場に立ち会う消防士は、平気なんですか?
A. 平気な人はいません。ただ、経験を重ねると「やるべきことに集中する」ことで冷静に動けるようになります。それでも心に残り続ける現場はあります。だからこそ、周囲に話す・休むといったケアが大切だと感じています。

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最後まで読んでいただきありがとうございました。

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