🔥 こんな人に読んでほしい
- これから消防・救急の道に進む、若手や消防士志望の人
- 初めての救急現場で、うまくできず自分を責めてしまった人
- 救急現場の「本当の大変さ」を知りたい人
今日は「びっくりCPA」というテーマで、元消防士として本音で書いていきたいと思います。
僕は5年半、消防士として勤めたあと、今はトラックドライバーをしています。
先日、こんな趣旨のメッセージをいただきました。「最初の救急出動が、びっくりCPAでした」と。この言葉、消防に関わったことのある人ならゾッとするワードなのですが、知らない方には「なんのこと?」ですよね。
そこで今日は、若手消防士の方や、消防のことを知らない方に向けて、「びっくりCPAとは何か」「それがどれだけ壮絶な現場なのか」を、正直に書いていきたいと思います。
そもそも「CPA」とは
まず「CPA」というのは、心肺停止の状態のことです。心臓も呼吸も止まっている、一刻を争う状態ですね。
通報の時点でCPAが疑われる重篤な事案には、救急車1台と消防車1台がセットで出動します(いわゆるPA連携)。出動の途中で、「60歳男性、CPA状態、バイスタンダー(発見者)1名」といった無線が入ってきて、隊全員が「よし、心肺停止だ」と身構えて向かうわけです。
一方で、そこまで重篤ではないと判断された事案には、救急車1台だけで対応します。指令の音にも種類があって、救急・火災・救助でそれぞれ違う。つまり、出動する側は「これは軽そうだな」「これは重そうだな」と、ある程度身構えてから現場に向かうんです。
「びっくりCPA」とは
では、びっくりCPAとは何か。
簡単に言うと、「そこまで重篤じゃないはず」の一般救急として、救急車1台で出動したのに、現場に着いてみたら心肺停止だった──これが「びっくりCPA」です。
心の準備も、人員の準備も「軽い事案」モードで向かっているところに、いきなり最高難度の現場が突きつけられる。この落差が、とにかく大変なんです。
まず、人手がまったく足りない
びっくりCPAの何が大変か。最大の問題は、人手です。
救急車は基本、3人で活動します。「軽い事案」として呼ばれているので、この3人しかいません。ところが、CPAの活動というのは、正直4人でもきついんです。実際には、そこに搬送支援が2〜3人来て、ようやく現場がまともに回り始める。
なぜそんなに人がいるのか。CPAの現場では、やることが山のようにあるからです。
- 胸骨圧迫(心臓マッサージ)に、1人つきっきり
- 換気(人工呼吸)にも、1人
- アドレナリン投与のための静脈路確保、点滴一式の準備
- 家族への聴取(倒れるところを見たか、倒れた音を聞いたか、既往歴は…)
- 医師への連絡と、指示に沿った処置
- 搬送先の病院を、自分たちで探して確保
- 無線連絡、そして現場全体のマネジメント
これを、3人で。心臓マッサージと換気で2人が埋まったら、残りはたった1人。その1人が、電話連絡も、資機材の準備も、現場の指揮も、全部やる。もう、人外レベルです。これを3人でこなせる隊があったら、本当に化け物だと思います。
訓練と現場は、まったく違う
「でも、訓練では3人でやってるんでしょ?」と思いますよね。ここが、大きな矛盾なんです。
たしかに、救命士の訓練は3人で活動する前提で行います。でも、その訓練は、資機材の位置も、傷病者役の人形の位置も、すべて「やりやすいように」整えられている。そのうえで、ようやく3人でできる。しかも、それでギリギリなんです。
現場は、そうはいきません。家がめちゃくちゃ狭かったり、傷病者の体格が100kgを超えていたり、旅館の風呂場で倒れていたり。お風呂の狭い床の上で、まともに心臓マッサージなんてできません。YouTubeで見るきれいな訓練映像とは、まるで別物。本当に、てんやわんやなんです。
病院連絡も、自分たちで
もうひとつ、地味にきついのが病院連絡です。
いきなり発生した事案なので、搬送先の病院は取れていません。だから、活動しながら、自分たちで電話をかけて受け入れ先を探す。これも訓練ではやりますが、現場では電波が弱かったり、なかなかつながらなかったり。そこでまた、時間をロスしていく。
僕自身が経験したびっくりCPAは、傷病者の方が100kgを超える体格で、搬送に本当に苦労しました。足の踏み場もないような部屋から、2人がかりで運び出して──おかげで、僕は腰を痛めました。それくらい、過酷な現場なんです。
応援があれば、現場は回る
逆に言えば、最初からPA連携で人がそろっていれば、現場はちゃんと回ります。消防本部にもよりますが、6〜7人いれば、こう役割を分けられる。
- 電話連絡・聴取・現場マネジメントに1人
- 換気に1人
- 胸骨圧迫(CPR)に1人
- 特定行為を主に行う救命士に1人
- 救命士が拾いきれない聴取を補助する隊員に1人
- 特定行為の準備やCPRを手伝う隊員に1人
楽ではありませんが、これなら現場は成り立つ。それを3人でやろうとするのが、どれだけ無茶か、伝わるでしょうか。
そして、事後検証で突っ込まれる
CPAや特定行為があった事案では、後日「事後検証会」が行われます。活動の振り返りをして、適切だったかを検証する場です。
大事なことなのは分かっているんですが、正直、「このタイミングの処置はどうだったのか」「初期の換気は不良だったんじゃないか」と、揚げ足取りのように突っ込まれることもある。あの、てんやわんやの現場を経験していない人から言われると、なかなか、ね。換気が良好だったかどうかなんて、救命士以外の一般隊員にはそもそも判断が難しいんです。
通報者にも、分からないことがある
ここも知っておいてほしいことです。出動の途中でCPAだと分かればまだいい。でも、通報者の伝え方によっては、分からないまま向かうこともあります。
たとえば「死戦期呼吸」。これは心停止直後に見られる、あえぐような呼吸で、一見すると呼吸をしているように見えます。だから通報を受けた側が「呼吸していますか?」と聞いても、一般の方には判断が難しく、「している」と答えてしまう。結果、軽い救急として指令がかかり、現場で初めてCPAだと判明する──これが、びっくりCPAの生まれる典型です。決して、通報した方が悪いわけではありません。
だから、覚悟してほしい。でも、大丈夫
メッセージをくれた方へ。初めての救急がびっくりCPAだったなら、それは絶対に忘れられない、脳裏に焼き付く経験だったと思います。僕にも、経験があるので、あの現場の空気が想像できます。
救急に出る以上、こういう現場は必ず訪れます。てんやわんやの中で、一気に頭をフル回転させて、「CPAのスイッチを入れる」。これは、本当に難しい。ベテランの救命士でも「スイッチを入れる」という言い方をするくらい、特別な切り替えが必要なんです。
だから、最初からうまくできなくて、当たり前。あの現場を経験して、まだ消防を続けているなら、それだけで十分すごいことです。どうか、自分を責めないでください。あなたは、とんでもなく難しい現場を、くぐり抜けたんですから。
よくある質問
Q. なぜ救急車1台(3人)だけで出動するケースがあるのですか?
A. 通報内容から「重篤ではない」と判断された事案は、限られた消防力を効率的に使うため、救急車1台で対応します。全件にPA連携(消防車も同時出動)をかけると、本当に必要な現場に車両が回らなくなってしまうためです。
Q. 「死戦期呼吸」とは何ですか?
A. 心停止の直後に見られる、しゃくり上げるような、あえぐ呼吸のことです。一見すると呼吸しているように見えますが、実際には有効な呼吸ではありません。一般の方には判断が難しいため、これが「びっくりCPA」が生まれる大きな原因になります。
Q. 初めての救急でうまく動けませんでした。向いていないのでしょうか?
A. そんなことはありません。CPAの現場は、ベテランでも「スイッチを入れる」と表現するほど特別な切り替えが必要な、最高難度の現場です。最初からうまくできる人はいません。その現場をくぐり抜けて続けているだけで、十分にすごいことです。
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