同僚2人が、フラッシュオーバーに巻き込まれた日。元消防士が忘れられない、火災現場のリアル

🔥 こんな人に読んでほしい

  • 消防士の火災現場の「本当のリアル」を知りたい人
  • これから消防士を目指す、覚悟を確かめたい人
  • フラッシュオーバーの怖さ、命がけの現場を知りたい人

今日は「僕が忘れられない、印象に残った現場」というテーマで、元消防士として本音で書いていきたいと思います。

僕は5年半、消防士として勤めたあと、今はトラックドライバーをしています。5年半のあいだ、救急も、救助も、火災も、数えきれないほどの現場に出動してきました。

その中でも、いまだに忘れられない現場があります。同僚2人が、フラッシュオーバーに巻き込まれ、死んでもおかしくなかった火災です。今日は、その話をさせてください。

1. 精肉店から出た火

現場は、1階と2階に分かれた建物でした。1階は精肉店で、精肉が貯蔵されているところから出火し、火は1階から2階へと燃え移っていきました。

僕は、10トンの水槽車で出動しました。役割は、水槽車からタンク車へ水をつなぎ、そのうえで進入隊員として加わること。先着隊はすでに放水し、延焼防止活動を進めていました。

僕らはまず、1階の火点を叩いて消すことができました。そして、2階に燃え移った火を消すために、隊を編成し直す。その進入隊員として、15年目のベテラン消防士長と、入って1年目の若手の2人が、内部へと進入していきました。

2. 一瞬の「ドン」という音

その直後でした。僕は、ボンベの残圧がほぼゼロになってしまい、ちょうどボンベを換え終わったところでした。「よし、火点を叩くぞ」──そう思った、まさにその瞬間。「ドンッ」と、すごい音がしたんです。

爆発音とまではいかないけれど、腹に響くような、大きな音。その直後、なぜか1階から、2階に進入していったはずの消防士長が、お腹を押さえながら、命からがら出てきました。顔にも、かなりの火傷を負っていました。「なんで1階から出てきたんだ?」

あとでわかったのは、こういうことでした。あの「ドン」という音とともに、2階の床が抜け落ちた。消防士長は、その抜け落ちた穴に取り残され、「ああ、このまま死ぬんだな」と思ったそうです。でも、運良く、床が抜けたことでそのまま1階へ落下し、難を逃れることができた──。フラッシュオーバー。炎が一気に部屋全体を包み込む、あの現象が起きていたんです。

3. 「まだ、一人残っている」

そして、告げられます。「2階に、まだ1年目の子が取り残されている」と。もう、現場はパニックでした。

正直に言うと、僕自身も、その瞬間から具体的にどう動いたのか、あまり覚えていません。それくらい、頭が真っ白になっていました。

助けるためには、本来「検索隊形」を取らなければいけません。バディを組み、自己確保ロープを設定し、検索ロープで必ず戻ってこられるようにして、筒先を持って進入する。ボンベの残圧を確認し、活動できる時間を計算する。これが、僕らが叩き込まれてきた「基本」です。でも、そのどれもが、できていませんでした。

検索隊形も取れず、誰が指揮を執るのかもわからない。そんな中で、20年目のベテラン小隊長が、面体もつけずに、たった一人で炎の中へ突入しようとしていたんです。これは、二次災害になりかねない。何人かで、必死に止めました。僕も止めに入ったと思います。みんなで若手の名前を呼び続けながら、「大丈夫か!」と叫びながら。

──その、止めていた最中でした。取り残されていたはずの1年目の子が、2階の玄関から、自力で出てきたんです。「ああ、良かった」。心の底から、そう思いました。防炎服は溶け、火傷を負ってはいましたが、生きていた。

4. 「もう、死ぬんじゃないか」

あとで、その若手から中の状況を聞きました。進入した時、部屋はそこまで熱気がひどいわけではなかった。ただ、「なんか、嫌な感じがした」と言うんです。その嫌な予感の中で進んでいくと、どんどん熱気が上がってきた。そして次の瞬間、ぶわっと、炎が一気に押し寄せてきた。

それでも筒先だけは離さず持っていて、なんとか、ある程度安全なトイレへ避難したそうです。それでも、熱気はどんどん迫ってくる。「もう、死ぬんじゃないか」。そう思っていた2〜3分後、自分を呼ぶ仲間の声が聞こえた。その声のする方向へ、がむしゃらに向かった。──そうして、2階の玄関にたどり着き、生還したんです。本当に、紙一重でした。

5. 人間は、パニックになると何もできなくなる

この現場で、僕が痛感したことがあります。一つは、消防士というのは、いつ死んでもおかしくない職業だということ。その時、僕はもう退職を決めていました。それでも、頭ではわかっていたつもりの「危険」を、体で思い知らされました。

もう一つは、人間の脆さです。人はパニックになると、本当に頭が真っ白になって、何も考えられなくなる。あれだけ基本を叩き込まれ、普段は冷静なベテランたちでさえ、いざとなれば基本の「き」もできなくなる。それが、現場のリアルでした。

パニックの真っ只中で、「まず検索隊形を取りましょう」と、冷静に言える人間が、いったいどれだけいるのか。過酷な現場ほど、それができる人の存在が、どれだけ大事か。あの日、僕は思い知りました。

6. 全力で生きる。朝を迎えられることに感謝する

もし、あの2人が亡くなっていたら。僕は今、こうして話していて、ふと思いました。──もしかしたら、僕はあのまま仕事を辞めていなかったんじゃないか、と。

身近な人が、同じ釜の飯を食ってきた仲間が、目の前で死にかける。そんな経験は、なかなかできるものではありません。あの現場を経験した人間は、みんな、少なからず心を病みました。当事者たちは、思い出すだけで泣いてしまうような精神状態に陥っていました。トラウマです。

でも、だからこそ思うんです。自分の人生が、いつ終わるかなんて誰にもわからない。だったら、後悔のないように、全力で生きるしかない。朝、こうして目を覚ませることが、当たり前じゃない。その一日一日が、感謝なんだと。今日が、人生で一番若い日ですから。

最後に、ひとつだけ本音を。これだけ命をかけていて、消防士の給料は、正直そんなに高くありません。手取りは、最後で24〜25万ほど。ボーナスは年間100万ほど。でも、命がけの仕事の対価としては、決して高くはない。これも、リアルです。

これから消防士を目指す人へ。この仕事には、こういう命の危険が、本当にすぐそばに潜んでいます。それでも飛び込む覚悟があるなら、僕は心から応援します。そして、どうかその現場で、冷静でいられる一人になってください。最後まで読んでいただきありがとうございました。

よくある質問(FAQ)

Q. フラッシュオーバーとは何ですか?

A. 室内に溜まった可燃性ガスに一気に着火し、部屋全体が炎に包まれる現象です。発生すると数秒で致命的な状況になり、消防士が殉職する原因にもなります。この記事では、実際に同僚が巻き込まれた現場を綴っています。

Q. 消防の現場は、そんなに危険なの?

A. はい。訓練を積んだベテランでも、いざパニックになると基本の動きができなくなるほど過酷です。命がけの仕事であることは、目指す前に知っておいてほしい現実です。

Q. 消防士の給料は高い?

A. 命がけの仕事の割に、決して高くはありません。筆者の場合、最後で手取り24〜25万円ほど、ボーナスは年間100万円ほどでした。これも消防士のリアルです。

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