💡 この記事のポイント
- 消防学校(初任科)とは何か、ある1日の流れを元消防士がリアルに解説
- 本当にきついのは体力より「人間関係」。辞める人の理由も、そこが多い
- それでも初任科は「ふるいにかけられる場所」。今つらいあなたへのメッセージ
今日は「消防学校(初任科)」というテーマで、元消防士として本音で話していきたいと思います。
僕は5年半、消防士として勤めたあと、今はトラックドライバーをしています。
先日、「初任科が辛すぎて、辞めたいです」という趣旨のメッセージをいただきました。今日は、この方へのお返事として、そしてこれから消防士を目指す人の参考にもなるように、「そもそも初任科とは何か」「どんな1日を過ごすのか」「なぜあんなに厳しいのか」、そして「今まさに辛い人へ伝えたいこと」を、正直に話していきます。
こういう情報はすでにたくさん世に出回っていると思いますが、あくまで「一人の元消防士のリアルな体験談」として、読んでいただければ嬉しいです。
消防学校(初任科)とは?前期と後期の違い
初任科というのは、簡単に言うと、現場に出るために最低限必要な、知識や手技、訓練礼式、そして集団生活の規律などを学ぶための課程です。俗に言う「消防学校」ですね。
消防士に必要な知識、火災現場での活動、救助活動での資機材の扱い、救急でのストレッチャー操作や、傷病者への基本的な手当て。そういった、災害現場で必要になる基礎の基礎を、消防学校に入校して、みっちり学んでいきます。
初任科は、前期と後期に分かれています。前期は、現場経験のない新採用の人が対象で、期間はだいたい半年。4月に採用されて、そのまま学校に通うイメージです。後期は、いったん消防署に配属されて、多少なりとも現場や訓練を経験してから入る人が対象です。
僕自身は中途採用で、後期組でした。ただ、中途だったので、実際にはほぼ前期組と変わらないような、まっさらな状態で臨むことになったんです。周りは、ある程度訓練を積んできた子が多くて、みんな普通にできる。それを見て「なんでみんな、こんなにできるんだろう」と、正直かなりコンプレックスを感じていました。同期の中で、いちばん下からのスタートだったと思います。
「基礎の基礎なんて、消防署に配属されてから学べばいいじゃないか」と思う人もいるかもしれません。実際、僕自身も当時は「早く現場に出たいな」と思っていました。でも今振り返ると、この基礎をおろそかにはできない。ここで土台をつくるからこそ、現場で応用が効くようになるんだな、と感じています。
なぜ、各自治体の新人がまとまって学ぶのか
しかも、これを各自治体がバラバラにやってしまうと、コストもかかるし、自治体によって消防力に差が出てしまう。だから、各自治体の新人消防士がまとまって、同じ初任教育を受ける。この「偏りをなくす」という意味でも、初任科はすごく大事な仕組みなんだな、と今は思います。
消防学校(初任科)の1日の流れ
1日の流れも、ざっくり紹介します。朝は7時半ごろに起床。眠い目をこすりながら、歯を磨いたり顔を洗ったりして、朝礼、消防体操、ランニング。それが終わると朝食です。ただ、この朝食を早く終わらせないと、次の訓練の準備が間に合わなくてしんどい。だから、ものすごい勢いで飯をかき込んでいた覚えがあります。
朝食のあとは、部屋の掃除や訓練の準備でバタバタ。そして8時45分ごろから、1限目の訓練がスタートします。訓練の中身は、消防活動訓練、救助訓練、救急訓練、そして座学。それに加えて、式典などで恥ずかしくないようにするための「訓練礼式」。「気をつけ」「右向け右」「回れ右」みたいな、いわゆる集団行動の基礎ですね。体力的にはそこまでキツくないんですが、きっちりやろうとすると、これはこれで意外と大変なんです。
午前中に訓練礼式をやって、昼からは消防活動訓練や救助訓練、という日が多かったですね。最初は基礎的なことから始まって、だんだん検索訓練や応急担架の訓練など、応用的な内容に進んでいきます。
そして、この訓練準備の段取りが悪いと、教官にこっぴどく怒鳴られます。「指摘」と呼ばれる、腕立て伏せの罰もありました。救助訓練で資機材が揃っていなくて、班全員でやり直しをさせられたことも、普通にありました。僕が入校したのは平成の最後の頃で、当時はまだそういう時代でした。
一つ、不思議だったのが、学校とはいえ給料をもらいながら通う、ということ。学びに行っているのに給料が出る。学生に戻ったような、なんとも懐かしい、不思議な感覚だったのを覚えています。
消防学校の何がきつい?体力より人間関係
体力的なきつさ
体力的にも、もちろんきついです。ロープ登はんやロープブリッジ渡過、体力錬成もきついし、そもそも防火衣を着てホースを持って走るだけでも、最初は体に相当な負担がかかります。それが訓練の進行とともに、どんどん難しくなっていく。最初のうちは、本当に体がついていきませんでした。
本当にきついのは「人間関係」
でも、本当にきついのは、体力よりも「人間関係」だと僕は思っています。
寮は、だいたい6人部屋。6人で1つの班をつくって、その中で寝起きし、行動していきます。仲のいい班ならいいんですが、班の中で一度亀裂が入ると、これがどうしてもきつい。しかも、自分が良かれと思ってやったことでも、それをよく思わない人は必ずいる。今まさに、寮生活で悩んでいる人の気持ちは、すごくよくわかります。
特に、高卒で入ってきた子は、親元を離れて初めての寮生活、という場合も多い。それだけでも相当な負担なのに、そこに慣れない集団生活と厳しい訓練が乗ってくる。辛くないわけがないんですよね。
いじめと、できない人の孤立
そして、正直に言うと、人間関係の問題――言いにくいですが、いじめのような事案が起きてしまうこともある。世に出ていないだけで、実際にありました。僕のときは、初任科生のトップである「総代」、その次の「副総代」と話をして、なんとか事なきを得たこともあります。
それから、訓練ができないというだけで、番手をやらせてもらえない、という空気もありました。どうしても物覚えが悪い人、できない人はいます。そういう人が、同じ班の中で、なんとも言えない仲間外れのような状態になってしまう。しかも、できないことでプレッシャーが強くなりすぎて、余計にできなくなる、という悪循環もある。僕自身が、まさにそのタイプでした。
だから、初任科で辞めてしまう人は、「できる・できない」よりも、この人間関係が理由で辞めるのが一番多いのかな、と僕は感じています。1日が終わると、泣いている人も普通にいました。その気持ちは、痛いほどわかります。
消防学校はなぜ厳しいのか
消防が「命がけ」の仕事だから
なぜ、あそこまで厳しいのか。答えはシンプルで、消防の仕事が「命がけ」だからです。
これほど命がけの仕事は、なかなかないと僕は思っています。燃え盛る炎の一歩手前まで内部進入して、要救助者を助けにいく。その中で、フラッシュオーバーやバックドラフトで命を落としてしまう消防士も、現実にいます。命がけの職業だからこそ、絶対に「殉職者」を出してはいけない。だから、あの厳しい指導も、僕は致し方ないと思っています。
人の命がかかっている場面で、「いいよ、いいよ」と、割れ物を扱うように優しく教えていたら、事の重大さに気づけない若手も必ず出てくる。厳しく言わないと伝わらないことは、絶対にあるんです。だから、教官の厳しい指導そのものは、しょうがない。むしろ必要なことだと、僕は思っています。
初任科は「ふるいにかけられる場所」
きついことばかり書きましたが、今になって思うのは、初任科は「ふるいにかけられる場所」なんだ、ということです。
消防の現場は、班(チーム)で動きます。消防活動訓練も、救助訓練も、救急訓練も、すべて班単位。だから、集団生活やチームプレーがどうしてもできないと、現場に出てからも苦しくなってしまう。もし初任科の集団生活が合わないとしたら、それは消防署に戻って勤務したときにも、しんどくなる可能性が高い。それを、本格的に働き始める前に見極めるための課程でもあるんだな、と、今は思っています。
厳しい訓練も、実は理にかなっていました。現場は、大勢の人に見られながら活動する、いわば「衆人環視」の中の仕事です。見られながら訓練をするというのは、その予行練習でもあった。プレッシャーの中でも平常心でやり切る力は、まさに現場で求められるもの。今思えば、すごく大事なことだったんだなと思います。
僕がなんとか初任科を乗り越えられたのは、正直、運もありました。もともと野球というチームスポーツをやっていたので、チームでの動きに慣れていた。大学時代に寮生活も経験していたので、集団生活への抵抗も比較的少なかった。そして何より、訓練が全然できない僕を、周りのみんなが助けてくれた。本当に、そのおかげで乗り越えられたと思っています。
いじめや理不尽に苦しんでいるときは
厳しさが、パワハラやいじめにつながるのはよくない
ただ、その厳しさが、パワハラやセクハラに「つながってしまう」のはよくない。ここは、はっきりそう思います。
厳しい指導が当たり前の環境だと、どうしても教官も厳しくなる。そのストレスフルな環境の中で、消防学校生同士のいじめが発生してしまうことも、正直、中にはあります。だから、リアルを知って不安になる気持ちは、すごくよくわかります。
そのうえで、これは大前提として言っておきますが──いじめは、いじめる側が100%悪いです。いじめは絶対によくない。ただ、これは個人的な考えとして聞いてほしいのですが、いじめる側が悪いのを前提としたうえで、「いじめられない自分になる」努力も、自分を守るためには大事だと思っています。
たとえば、格闘技をやってみる。筋トレをして体を大きくする。それだけでも、相手からの見られ方は全然変わります。「こいつには手を出しづらいな」と思わせることも、一つの防衛なんですよね。自分を守るために、強くなっておく。これは、決して逃げではないと思っています。
「お人好し」が損をしないために
消防学校には、どうしても「学生気分」が抜けない人が集まります。新卒でそのまま入る人が多いので、これはある意味しょうがない。
その空気の中で、たとえばこんなことがあります。試験の過去問が出回っていて、それを持っている人がいる。すると、その人に「便利屋」のように群がって、本当は自分で勉強すべきなのに、人の問題集を自分のもののように使って済ませようとする人が出てくる。正直、卑怯だなと思う場面もありました。
こういう環境だと、どうしても「優しい人」「お人好し」が損をしてしまう。だからこそ、毅然とした態度が必要なんです。何を頼まれても「いいよ、いいよ」ではなく、時にはきちんと断る勇気を持つ。「何でもいいよ」の人にならない。これから社会人として生きていくと、いろんな誘惑や理不尽があります。その中で、コミュニケーション能力と、毅然とした態度。この2つは、必要不可欠だと思います。
一人で抱えず、必ず相談してほしい
もし今、同期に変なことをされたり、いじめのようなものを受けているなら、絶対に一人で抱えないでください。遠慮なく、相談してほしいんです。
相談先は、必ずいます。その期の総代や副総代、寮の年上の先輩、寮のリーダーや班長。身近で、信頼できる人に相談する。これが本当に大事です。消防学校には、各所属からたくさんの仲間が集まってきます。だから、誰か一人は必ず、手を差し伸べてくれる人がいる。仕事以外の人間関係で、つまずいてほしくない。
そして、どうしても無理なら、辞めるという選択も、僕は否定しません。職業は、消防士だけではない。現に、僕自身も転職しています。そんなに辛い思いをしてまで、嫌なことを続ける必要はない。でも、本当に消防士として働きたいなら、そこは「しょうがない」と割り切って、乗り越えるしかない。どちらを選ぶかは、あなた次第です。
今、消防学校で苦しんでいるあなたへ
初任科は、みんな辛い
最後に、今まさに辛い人へ。まず、初任科は、みんな辛いです。あなただけが辛いわけじゃない。感じ方は人それぞれですが、「辛いものだ」と思って行くくらいが、ちょうどいいと思います。
もし本当に、心も体も限界なら、辞めるという選択も、僕は否定しません。でも、あれだけ勉強して、難しい試験を突破して消防士になったわけですよね。だったら、もう少しだけ耐えてみると、その先にいいことがあるかもしれない、とも思うんです。本当に限界のときは、周りに「もう無理です」と声を上げてほしい。でも、まだ耐えられているなら、その耐えている自分を、少しだけ信じてみてほしい。
それから、これは絶対に言っておきたいのですが、いじめは、いじめる側が100%悪いです。人間関係が原因で辞めてしまう人に対して、「もったいない」とすら、僕は言えません。それくらい、初任科という場所は過酷だと思うから。もし今、いじめや理不尽な扱いで苦しんでいるなら、あなたが悪いわけでは、決してありません。
僕自身は、初任科を頑張ってきて、本当によかったと、今は思っています。あのきつさを乗り越えた経験は、間違いなく自分の土台になりました。今の一歩が、その先につながっていきます。今まさに苦しんでいるあなたに、この記事が少しでも届けば嬉しいです。
最後に伝えたい。「消防学校は、茶番です」
最後に、いちばん伝えたいことを書きます。これは今だから言えることなんですが──消防学校は、茶番です。
どういうことか。あの厳しい教官たちは、じつは「教官」という役を演じているんです。特別に怖い人間なわけではなくて、一人ひとりは、僕らと同じ、普通の消防士。それが、新人を鍛えるために、あえて厳しい教官を演じている。
僕には、忘れられない経験があります。学校を出たあと、当時あれだけ厳しかった教官と、食事をする機会があったんです。そうしたら、その人が、信じられないくらい優しかった。目つきも、雰囲気も、まるで別人のよう。あの厳しさは、たまたま必死に「演じて」いただけで、本当は、新人消防士に何とか伝えようとする、熱い魂だったんだと、その時ようやくわかりました。
もちろん、消防学校の真っ最中は、「辛い、辛い」が先に立って、そんなことを考える余裕なんてありません。それは、痛いほどわかります。でも、もし一つだけ覚えておいてほしいことがあるとすれば、これです。消防学校は、茶番劇。だから、その茶番に付き合ってあげてください。
あの厳しさの裏には、「新人を、なんとか一人前の消防士にしたい」という、本気の想いがある。それだけは本当なんです。そこを汲み取ってもらえれば、あの日々も、ほんの少しだけ、楽に感じられるんじゃないかなと思います。今まさに、消防学校で苦しんでいるあなたに、この記事が少しでも届けば嬉しいです。頑張ってほしい、というのが、僕の一番の気持ちです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
よくある質問(FAQ)
Q. 初任科(消防学校)の期間はどのくらい?
A. 前期(新採用者)はだいたい半年です。後期は、いったん消防署に配属され、現場や訓練を経験してから入校します。寮での集団生活を送りながら、基礎知識・手技・訓練礼式を学びます。
Q. 一番きついのは体力ですか?
A. 体力もきついですが、本当にきついのは「人間関係」です。6人部屋での集団生活、班の中の亀裂、できないことによる孤立。辞める人の理由も、体力よりこちらが多い印象です。
Q. 初任科が辛くて辞めたいです。
A. みんな辛いです。あなただけではありません。本当に限界なら声を上げてください。ただ、まだ耐えられているなら、その自分を少しだけ信じてみてほしい。なお、いじめは100%いじめる側が悪く、あなたに非はありません。
Q. 消防学校はなぜあんなに厳しいの?
A. 消防が「命がけ」の仕事で、絶対に殉職者を出してはいけないからです。優しく教えるだけでは事の重大さが伝わらない若手もいるため、厳しい指導そのものは必要なもの、というのが筆者の考えです。
Q. いじめや理不尽に苦しんでいます。
A. いじめは100%いじめる側が悪く、あなたに非はありません。絶対に一人で抱えず、総代・副総代・寮の先輩など信頼できる人に相談してください。どうしても無理なら、辞める選択も否定しません。
Q. 「消防学校は茶番」とはどういう意味?
A. あの厳しい教官は「厳しい役」を演じているだけで、本当は新人を一人前にしたい熱い想いを持った、普通の優しい消防士です。その裏側を知っておくと、辛い日々も少し楽に感じられます。


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