社会死の6項目とは。救急隊が搬送できない基準と、現場の本音

消防士のリアル

💡 この記事のポイント

  • 救急隊が搬送しないと判断できるのは、6つの観察項目すべてに該当したときだけ
  • 死後硬直は、その6つのうちの一つにすぎない
  • 社会死と判断されたら、救急車では搬送できない。警察に引き継ぐことになる
  • 6項目が揃った瞬間、少しホッとしてしまう。その理由まで正直に書きました

今回は「消防士あるある」を一つ書いていきたいと思います。

ただ先に書いておくと、今回はかなり後ろめたい話です。きれいごとを書かないと決めて発信しているので、そのまま書きます。

僕は5年半、消防士として勤めたあと、今はトラックドライバーをしています。

結論から書きます。救急現場で、最後に死後硬直を確認できた瞬間、少しホッとしてしまう。 これが今日の話です。

先に、誤解のないように書きます

人を助けたくない、という話ではありません。 そこだけは先に書かせてください。

まず、ここを正確に書かせてください。

硬直があるだけでは、運ばないという判断にはなりません。

救急隊が「明らかに死亡している」と判断するには、6つの観察項目のすべてに該当している必要があります。 死後硬直は、その6つのうちの一つにすぎません。

6項目を順番に確認していって、そのすべてが揃った。だから「社会死」として不搬送にできる。この順番です。6項目の中身は、記事の後半でまとめて書きます。

そして社会死と判断された場合、ご遺体という扱いになるので、救急車で搬送することができません。 僕たちにできるのは、警察に引き継ぐことだけです。運びたくても運べない。そういう決まりなんです。

そのうえで、なぜホッとしてしまうのか。ここから書いていきます。

出動の段階で、なんとなく分かることがあります

救急指令が鳴ります。重篤な事案だと最初から分かっていて、出動します。

無線が飛んできます。その段階でもうCPAが確定していて、バイスタンダーからの情報がいろいろ入ってきます。

そのなかに、こういう情報が混ざることがあります。

動いていない。最終目撃は8時間前。あるいは10時間前。

この時点で、正直「おや」と思うんです。

CPAの現場は、緊張感がまったく違います

CPAの現場は、やることが山ほどあります。順番があり、手順があり、しかも急ぐ。全員が慌てています。

そこでモタモタする隊員が一人2人いると、現場はまったく回っていきません。だから隊員一人一人が、かなり気を引き締めて臨みます。

そして、これが一番重いのですが。処置のミスや特定行為のミスが起きると、医療事故になり得ます。 最悪の場合は裁判沙汰にもなります。そうなれば個人の問題では済まず、組織としての責任が発生します。

その責任感と、緊迫した状況。この2つが重なった現場です。

6項目が揃った、その瞬間

現場に着いて、傷病者の状態を確認していきます。

意識レベル。呼吸。脈拍。瞳孔。体温。ここまでで、すでに5項目が該当している状況があります。

そこで最後に、硬直を確認する。6つすべてが揃った。この時点で、不搬送とできることが決まります。

そして隊員としては、正直、少しホッとしてしまう。

これが本音です。逆に言えば、硬直がなければ6項目は揃いません。揃わなければ、全力の蘇生処置がそのまま続いていきます。

ホッとする理由は、現場のあとにあります

なぜホッとするのか。自分でも整理してみました。

現場が終わったあとに、事後検証があるからです。

CPAの現場が一件終わると、反省会のようなものが開かれます。そこで新人や若手が詰められることが、普通にあります。

「なんでこれをやったの」
「なんでやらなかったんだ」

公開処刑のような形で詰められることもあります。

しかも、一人一人が感想やフィードバックを求められる。そこで的外れなことは言えません。かといって、自己顕示欲が出すぎるのも地獄です。

6項目が揃って不搬送になると、そこから解放されるんです。

現場での緊迫感からも、救急車内で続く緊張からも、そのあとの検証からも。全部が一度に終わる。だから、ホッとしてしまう。

待ち時間は、空白の時間になります

6項目が揃えば、警察に引き継ぎます。

ただ、警察が到着するまでは待たなければいけません。隊長なり隊員が、救急車の中か現場で待ちます。

この待ち時間が、とにかく長いんです。

でも、その時間は何もできません。何もできないということは、署に戻って訓練をしなくていい時間でもあります。

正直に書くと、そこにも安堵がありました。

現場よりも、訓練のほうが嫌でした

これは声を大にして書きたいことです。現場よりも、訓練のほうが嫌でした。

嫌というほど体感してきました。きつい訓練で、やらかせば怒られます。そういうときに何を思うか。

「今、指令が鳴ってくれないかな」

これは、かなりの消防士に共感してもらえると思っています。

もちろん矛盾しています。訓練をしなければ現場で動けるようにはなりません。人の力は訓練でしか培われない。それは分かっています。だからしょうがない。

分かっていても、そう思ってしまう。それが人間だと思います。

ここから先は、市民の方に知ってほしいこと

ここまでは消防士側の本音でした。ここからは、知っておいてほしい話を書きます。

社会死と判断された場合、必ず警察に引き継ぐことになります。

そして第一発見者は、通報してくださったバイスタンダーの方になります。

警察は、他殺の可能性も含めて疑ってかかります。だから、いろいろな質問や聴取を受けることになります。

故人を目の前にして聴取を受ける。 これはものすごく気の毒だと、いつも思っていました。

ただ、警察も職務を全うしているだけです。他殺の可能性を否定できない以上、仕方のないことだとも思います。

社会死と判断する、6つの項目

「心臓が止まってるのに、なんで運ばないんだ」

これは、現場でよく言われた言葉です。

気持ちは本当に分かります。目の前で家族が倒れていて、救急隊が来たのに運ばない。納得できるはずがありません。

でも、そこには基準があります。救急隊が「明らかに死亡している」と判断するための観察項目です。

一つ、意識レベルが三〇〇であること。 JCSという意識レベルの指標で最も重い状態です。痛み刺激にもまったく反応がない、深昏睡の状態を指します。

2つ、呼吸がまったく感じられないこと。

3つ、総頸動脈で脈拍がまったく触知できないこと。 手首ではなく、首の動脈で確認します。

4つ、瞳孔の散大が認められ、対光反射がまったくないこと。 ペンライトを当てても瞳孔が反応しない状態です。

5つ、体温が感じられず、冷感が認められること。

6つ、死後硬直または死斑が認められること。 死斑は、皮膚を押してみて斑が消えなければ死斑の可能性が高い、という見方をします。

そしてここが大事なところです。

この6つすべてに該当した場合に、はじめて「明らかに死亡している」と判断されます。

一つでも欠けていれば、そこで判断を止めます。迷ったときは指示医師に連絡して、指示や助言を受けることになっています。

不搬送を決めたあとも、ご家族の同意をいただき、警察へ連絡し、活動記録に詳細を書き残します。

「なんとなく亡くなっているように見えるから運ばない」ということは、絶対にありません。

あらためて書きますが、硬直だけを見て運ばないと決めることは、絶対にありません。

順番はいつも同じです。1項目ずつ確認していって、最後に硬直を確認できた。だから6つすべてに該当する。だから不搬送とできる。

僕がホッとしてしまうのは、まさにこの「6つ目が埋まった」瞬間のことです。

「なぜ運んでくれないのか」と感じたご家族へ

ここからは、ブログだからこそ書き足しておきます。

もし、ご家族の立場でこの記事にたどり着いた方がいたら。あのとき救急隊が運んでくれなかったことを、今も納得できずにいるかもしれません。

だから、現場にいた側として、いくつか補足させてください。

あれは、隊員の裁量や判断ではありません。 6項目という決められた基準があり、そのすべてに該当したときだけ不搬送になります。隊員が「もういいだろう」と決めているのではないんです。

そして、運びたくても運べません。 社会死と判断された時点でご遺体という扱いになり、救急車で搬送することが制度上できなくなります。私たちにできるのは、警察に引き継ぐことだけです。

警察の聴取も、疑われているという意味ではありません。 他殺の可能性を否定する手続きが必要なだけです。故人を前にしてあの時間を過ごすのは、本当につらいと思います。現場にいた側も、毎回そう感じていました。

それでも割り切れない気持ちが残るのは、当然だと思います。ただ、あのとき救急隊が何もしなかったわけではないこと、決められた順番で一つずつ確認していたこと。そこだけは、知っておいていただけたらと思います。

最後に

今日はかなり後ろめたい話を書きました。

6項目が揃った瞬間、少しホッとしてしまう。よくないことだとは思っています。それでも、事実だから書きました。

現場の緊張、責任の重さ、そのあとに待っている検証。あの一連から解放されることへの安堵だったんだと、今は思います。

そして6つの項目を一つずつ確認していく作業そのものが、あの現場でいちばん静かで、いちばん重い時間でした。

同じことを思ったことがある方がいたら、少し救われる気がします。

よくある質問

Q. 社会死とは何ですか?
A. 救急隊が「明らかに死亡している」と判断した状態を指します。6つの観察項目すべてに該当した場合にのみ、この判断がなされます。社会死と判断されるとご遺体という扱いになり、救急車での搬送ができなくなります。

Q. 死後硬直があれば、それだけで運ばないのですか?
A. 違います。死後硬直は6項目のうちの一つにすぎません。意識レベル・呼吸・脈拍・瞳孔・体温・硬直または死斑のすべてに該当してはじめて不搬送となります。一つでも欠ければ、そこで判断を止めて蘇生処置を続けます。

Q. 心臓が止まっているのに、なぜ病院へ運んでくれないのですか?
A. 社会死と判断された時点で、制度上ご遺体という扱いになり、救急車で搬送することができなくなるためです。隊員の裁量ではなく、決められた基準による判断です。そのあとは警察に引き継ぐことになります。

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